「吸収する精神(無意識)」の時期に現れる敏感期には、「話しことばの敏感期」、「秩序の敏感期」、「感覚の敏感期」、「運動の敏感期」の4つがあります。そのため、この時期はこれらの敏感期に対応した環境を整える必要があります。まずは、それぞれの敏感期について以下に詳しく説明します。
「話しことばの敏感期」
…周りで誰かが話していることばや、自分に語りかけてくれる人たちのことばを吸収し、溜め込む時期です。話しことばはこの時期に最も簡単に身につきます。
耳は7か月の胎児期ですでに完成し、その機能も始まっています。そのため、誕生前から人間の話すことばを吸収し、溜め込んでいるのです。そして、誕生後も、周囲から聞こえてくることばを吸収し続け、最終的には自分で発声をするに至ります。この時期に子どもの周囲に存在していることばが、その子どもの母語になります。例えば、両親が日本人で日本語しか話せなくても、この「話しことばの敏感期」の時期にイギリスに行き、英語の環境で育った場合は、両親が日本人であっても子どもの母語は英語になります。
「秩序の敏感期」
…場所や順番に対して強いこだわりを持ち、物事が整然としてまとまっている環境(外的秩序)にいようとする時期です。この敏感期は、環境に適応するため、そして、自分の内面に秩序(内的秩序)を形成するために現れます。なぜなら、秩序がある環境にいると、安心感が得られて環境に適応しやすくなり、また、自分の内面に秩序を形成することができるからです。いつも決まった道を通って決まった場所に行きたがる、ミニカーをひたすらまっすぐに並べる、横断歩道を渡る時はいつも白線だけを踏んで歩くといった行動は、大人からは「どうでもいいことにこだわっている」ように見えますが、子どもにとってはそうではなく、「環境に適応すること、内的秩序を形成すること」という重要な目的のために行っていることなのです。
「感覚の敏感期」
…五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)を刺激するものに対して強い興味を抱く時期で、0歳~3歳の幼児前期と、3歳~6歳の幼児後期の二つに分けられます。
「吸収する精神(無意識)」の時期である0歳~3歳は幼児前期であり、「感覚的印象を探求し、溜め込む時期」です。見たもの、聞いた音、嗅いだ匂い、感触、食べたものの味など、五感で得た感覚的印象をすべて吸収し、溜め込みます。道端の花に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ、ブロック塀を触りながら歩くといった行動は、「感覚の敏感期」の現れであり、五感の刺激を楽しみながら感覚的印象を吸収しているのです。
「運動の敏感期」
…自立に必要な動き(動作)に興味を持ち、それを獲得しやすい時期で、「感覚の敏感期」と同様に、0歳~3歳の幼児前期と3歳~6歳の幼児後期の二つに分けられます。
「吸収する精神(無意識)」の時期である0歳~3歳は幼児前期であり、「運動機能を獲得する時期」で、ティッシュを箱からなくなるまで引っ張り出す、蛇口をひねって水を出したり止めたりするといった行動が見られます。これらの行動は大人にとってはいたずらにしか見えませんが、そうではなく、「運動の敏感期」の現れであり、「握る、握ったものを引っ張る、手首をひねる」といった、自立に必要な運動機能を獲得しようとしているのです。
次のページでは、上記の敏感期に対応した環境の具体例を紹介します。